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チャイムが鳴って、本来ならば教室にいなければならない時間。なのに、私は彼と二人で今はほとんど使われてない校舎の階段にいた。
「ほら、これ」
「……ん、ありがとう」
ちょっと待ってて、と言ってどこかに行った彼が戻ってきたとき手に持っていたのは二本の缶コーヒーで。自動販売機で買ってきてくれたらしい。素直に受け取り、プルタブを開ける。彼は黙って、私の隣に座っていてくれた。何故か、心地良かった。
おごってもらった缶コーヒーを飲んでいると、気分が落ち着いてきた。少し顔色が良くなった私を見て、彼は安心したように小さく笑っていた。
「同じ学校だったんだねー」
「……お前、気付いていなかったのか」
同じ学校だなんて思っていなかったから、まさかこんなところで会うなんて、と言うと彼は頭を抱えていた。恨みがましい視線でじろり、と睨まれた。思わず後ずさる。
「言っとくが、毎日顔合わせてんだぞ」
「え!? そうなの!?」
「掃除場所、一緒だろうが」
「えー……うそー……」
今度は私が頭抱える番だった。目が悪く、人の顔を覚えるのが苦手だとはいえ、まさか掃除場所が一緒の人に気付かないとは。ちょっと申し訳なくなった。
「ご、ごめんなさい……」
「や、別にいいんだけど」
決まり悪げに謝ると、彼はふわりと笑って許してくれた。
それから放課後まで、いろいろな話をした。好きな本のこと、好きな食べ物や嫌いな食べ物のこと、政治情勢や、私が川が好きな理由、彼は釣りが好きであの日川に来ていたこと。たくさんの話をした。彼は聞き上手で話し上手だった。あっという間に時間が経っていった。
部活動が終わるくらいの時間になって、ようやく二人とも我に返った。それほど、夢中で話していたのだ。空は茜色に染まり、後片付けをする部活動生の声が響いていた。
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