沈む

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「何があったのかは知らないが、馬鹿なこと考えるんじゃない。親御さんが悲しむだろうが。自殺なんてするもんじゃない」  私は納得した。ちろり、と近場の岩を見ると、私が置いてある靴が行儀よく並んで置いてあった。どうやら彼は、私が入水自殺を図ったように見えたらしい。 「あのー……」 「何だ?」 「私、自殺なんてしてませんけどー」 「……は?」  きょとん、とした彼。私は、単に川で泳いでいただけだと説明する。こうしているのが好きで、毎週のように泳ぎに来ているのだ、と。  すると彼は、まじまじと私の顔を見つめ、深々とため息をついた。 「お前、傍から見たら相当悲惨な様子だったぞ」  彼曰く、真っ青な顔をしたうら若い女性が髪をなびかせて沈んでいて、よく見ると岩の上に靴がそろえて置いてあったら自殺にしか見えない、とのことで。思わず確かに、と言いそうになった。 「えと、ご心配かけてすみませんでし、た」 「いや、こっちも驚かせてすまん。危うく溺れかけるところだったろう」  彼は気まり悪げに頭をかいていた。ちろり、と視線を泳がせる。もう落ち着いたし、自分で泳げるのだが。抱きかかえてもらったままだと、あまりに距離が近くて心臓に悪い。 「それで、そのー」 「ん?」 「泳げるので、放してもらってもいいですか?」 「え? あぁっ! す、すまん!」  腰に回ったままの腕を指差して笑うと、面白いほど慌てて放してくれた。思わずくすくすと笑うと、真っ赤な顔で「笑うな!」と叫んだが全然怖くなかった。
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