心は

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 私はかれのことが好きだ。けれど、かれは私のことが好きではない。友達としては大事にされてると思う。けれど、恋人になることはない。決して。  かれが本を読んでいるのを見るのが好きだ。 細くて長い綺麗な指も、 時折メガネを押し上げる仕草も、 皮肉気に嗤うのも、 低くて艶めかしい声も、 実はコンプレックスで悩んでいることも、 飄々として見えるけど内心ビクビクしてるとこも、 自分に厳しいところも、 自分に絶望しているところも、 私が強がっているとすぐ見抜いて指摘してくれるところも、 道を外れそうになったら躊躇わず叱ってくれるところも、 本当は誰よりも情が深いところも、かれのすべて、愛おしくて仕方がなかった。 けれど、私がいくらかれを愛してもかれは私を愛してはくれない。 それでも、私はかれを愛していた。 隣に、友達として存在できるだけで幸せだった。 満足はしていないけれど、本当は愛して欲しいけれど、それでも幸せなのは確かだった。  ずっと振られ続けて、それでも傍から離れようとしない私をかれは突き放そうとして、良心が痛んでいた。私はそこにつけこんで、かれにしがみついていた。みっともなくても、愚かしくても、傍にいたかった。私を見てくれなくても。
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