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後半20分経過――。
(同点か、試合自体は拮抗しているが……)
記者席に座った、フリーのジャーナリストであるアルウィン・ラングニックがそう呟く。
いつものように、彼のノートは書きなぐったような文字で真黒である。
セットプレイから先制点を奪われたが、キャロルの得点で同点に追いついた。
ビューティフルゴールだった。
ボボからのキャロルへのパス。そのパスは、トライアウト戦でもキャロルが繰り返し見せていた無駄走りへの回答だった。
信じたスペースへの走り込みと、そこを目指す的確なパス。
それが繋がった後のキャロルのスピードは噂以上だった。
元々、スピードと足元の技術に定評があったキャロルである。
相対するコベントリー・シティ―の右サイドバックであるデーヴィスは、前半戦のクライフターンのようなテクニックを警戒していたようだった。そこにあの圧倒的なスピードである。
田舎の交差点を信号無視で駆けていくスポーツカーのような場違いなスピードだった。
デーヴィスも決してスピードのない選手ではなかったが、慌てて追いかけて、追いつくようなものではなかった。
そして、見事なゴー・アンド・ストップのフェイントからいったんパーカーへ戻した後、自らも中に切り込んでいった。
パーカーのクロス自体はトトを目指したものだったが、激しいマークを見て取ったトト・タムードは自らポストプレイに徹し、キャロルが走り込んでいた位置にボールを落とした。
それは地味だが、トトの好判断、好プレイだった。
最後はキャロルのノートラップシュートでゴールが決まった。見事な連携だったし、そのあとのチームの喜びも大きいように見えた。
チーム内で孤立しているという噂だったキャロルを取り囲む味方選手たち。
何かあったのかもしれない。ジャーナリストとしてプレストンをずっとマークしてきたラングニックは、その微細な変化を感じ取っていた。
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