第31節 昇格プレーオフ

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「あーーーっ!! 朝陽とキャプテーンっ!!」  ふいに元気な声がトレーニングルームに響き渡る。そこには、トレーニングウェアを着込んだフィル・パーカーが入ってきていたのだった。 「こんな朝早くになんて、誰もいないと思っていたのにっ」 「俺たちは練習熱心だからな」  クリス・キーガンはそう言って微笑む。若い選手たちが熱心であることに、年長者のキャプテンであるクリス・キーガンは満足を覚えるのだった。 「パーカーは、珍しいね」  ランニングしながら、朝陽が言う。 「そりゃあね。第2戦のことを考えるとなんだかいてもたってもいられなくなってねっ。体でも動かせばすこしは気がまぎれるかなってさ」  フィル・パーカーは言う。クラブのムードメーカーであり、陽気な若手選手でもある。その技術は高く、今年アラン・マーカスの指導のもと、サイドバックとして一皮剥けたと言われている。  かつては神童と呼ばれた選手であり、左ウィングのアンディ・キャロルとの高速左サイドは、プレストンの大きなストロングポイントの一つでもある。  フィル・パーカーは朝陽の隣の同じランニングマシーンに立って、スピードを調整する。隣では朝陽がリズミカルに両足を動かし続けている。クリス・キーガンは筋肉を鍛えるマシーンに座ったまま、両腕を使って重りを持ち上げている。 「ねえ、キャプテン。キャプテンは、第2戦はどんな試合になると思うっ?」  走り出してすぐに、フィル・パーカーがそう尋ねる。 「…………そうだな。第1戦のように激しい試合になるのは間違いないだろうな。両チームとも、プレーオフの決勝戦に進むために力の限りを尽くすことだろう」 「そうだよねっ」 「『緊張感に溢れたシーズンでも屈指の好ゲーム』」  朝陽が言う。 「ん? それって何?」 「昨日ネットニュースの見出しでそう書いてたよ。得点が入らない故に、こんなにも緊張感に溢れたゲームはなかなかないって」 「確かに、最後のフリーキックは吐きそうなくらい緊張したよっ」  フィル・パーカーは、走りながら両腕で体を抱きしめるような姿勢をとる。試合の記憶を思い出しているのだ。
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