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アラン監督が初采配(実際には選手たちに今まで通りやるようにしか指示していないので采配とは言えなかったが)を振るっているのと同じ時間、プレストンのクラブハウスのすぐ近くにあるパブでは、熱心なサポーターたちがカウンターの上や、壁際にかけられたテレビに向かって歓声を投げかけていた。
「あーっ、ダメだ! また一人でドリブル勝負してやがる!」
「なんでエヴァンスのパスに反応できねえんだよ! ヘタクソ! やめちまえ!」
「いまのはファールだろ! どこ見てんだよ、クソ審判!」
耳を澄ませば、聞こえてくるのは歓声というよりは乱暴な罵声ばかりだ。
もちろん、プレストンの選手のよいプレイには声を上げて歓声を送るが、チーム状態の悪い現在のプレストンでは、そういった賞賛の声より、非難や文句のほうが圧倒的に多い。
フットボールをあまり知らない者なら、それでよくサポーターを止めないものだと思うかもしれなかったが、彼らや彼女らにとって、チームは生まれた時からすでにサポートする対象としてそこにあったのだ。
できの悪い息子でも子供に対する愛情を完全に捨て去ることはできない。
サポーターたちは、そんな歯がゆくも複雑な思いを抱いていたのだ。
そんな騒がしい店内へ、一人の男が入ってきた。男というよりは少年といった印象で、パブに出入りするには幼すぎるように見える。
男はダークグレーのウインドブレーカーを着込み、同系色のニット帽をかぶっている。
ナイロン地の小さなナップサックを背負い、足にはブーツ風のジョギングシューズを履いている。
まるでトレイルランの途中でパブに迷い込んだかのような格好だった。
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