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「撫子ちゃーん!」
パーカーが嬉しそうな声をあげる。
「みなさん。こんばんは」
部屋に入ってきたのは、撫子バートンだった。プレストン会長であるデレク・バートンの次女である。
デレクの二人目の日本人妻との間に生まれたハーフで、アリスの異母妹でもある。
撫子は幼い頃に母を亡くしており、デレクは現在三人目の妻をもらい、その間にももう一人の娘であるシャーロットがいる。
アリス、撫子、シャーロットのバートン3姉妹は、サポーターたちが妻の遺伝子がことごとく勝利を収めたと胸を撫で下ろす、美人姉妹だった。
撫子は現在、大学に通いながら地元ローカルテレビ局のフットボール番組『プレストン・アワー』のレポーターをしている。
会長の娘であり、かつインタビューに訪れることが多く、ほとんどの選手たちと面識があった。
可憐で、名前の通り大和撫子らしい奥ゆかしい性格でありながら熱狂的なプレストンサポーターとして知られる彼女は、視聴者からと同様に選手たちの間でも人気が高かった。
ただ、普段は彼女と一緒に来るはずのカメラマンなどのクルーの姿はなかった。もちろん、ミーティングの内容をテレビ番組に撮影させるわけにはいかないから、それは当然だったが、選手たちは不思議そうに撫子を眺める。
「撫子ちゃんに来てもらったのはね、これからアナタたちに見せる映像に関係しているのよ」
怪訝そうな選手たちに向けて、アランが言う。
「これから見せる映像は、アナタたちの前半戦の様子を、『プレストン・アワー』のスタッフに特別に編集してもらったものよ。チームのふがいさなさをサポーターたちがどう思っているか、なぜふがいないチームになってしまったのか、それがよくわかる代物になっているわ」
撫子はテレビの電源を入れ、リモコンを操作する。
クラブのスタッフが部屋の電気を暗くし、画面には選手たちにとっても見慣れた『プレストン・アワー』のロゴとテーマ音楽が流れ始める。
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