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「あのVTRを選手たちに見せて良かったのでしょうか?」
撫子が隣に座っているアランを見てそう訊ねる。
「ま、嬉しくはないでしょうね。フットボーラーなんてプライドの高い負けず嫌いばっかりだから」
前を向いたまま、ハンドルを握ったままアランが答える。
「でもまあ、それで奮起してもらうくらいじゃないと全然ダメね」
ミーティングの後、アランは撫子を車で家まで送り届けてくれていた。
デレク会長の娘である撫子は、プレストン郊外にある屋敷で暮らしている。
地域で一番の建設会社を経営するデレクは昔からの資産家で、豪邸と呼べるほどの大きな邸宅に住んでいる。
雪道を走りながら、撫子は車のかすかな揺れに身を任せる。
「明日はトライアウトですね。いい選手が来てくれればいいですけど」
窓ガラスの向こう側に過ぎていく電灯のオレンジ色を見つめながら、撫子は言う。
「そうね。あまり期待はしていないんだけど、トライアウトに合格したいっていうやる気のある選手たちが集まれば、面白いことになるかもしれないわよ」
「面白いこと?」
「試合をするのよ。さっきも言ったけど、トライアウトの最終試験はレギュラー組との練習試合よ。トライアウトに来るくらいなんだからそれなりの技術はある選手ばかりだろうから、そんなやる気のある選手と戦ったら、いまのレギュラー組なら足元をすくわれるかもしれないわよ」
「万が一、トップチームが負けたりしたら、大変ですね」
「そうね。でもまあ、ショック療法もたまには必要かもしれないわよ」
何か面白いいたずらを思いついた子供のような表情で、アランは言うのだった。
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