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デレクは体を乗り出し、昨今の世界的大不況が、この健全なプレストンの財政基盤すら揺るがそうとしているのだという説明をし始める。
英国北部で有数の建設会社のオーナーでもあるデレクは、不況の影響をより色濃く受けているのだった。
補強はなし、余分な資金もなし。
アランは今朝会長室に呼ばれ、そう説明を受けた。
やれやれ、とアランは思う。
7連敗もしているチームが新戦力をまったく受け入れることなく、冬の移籍シーズンを冬眠中の熊のように口をつぐんで終えてしまうなんて、まったくありえないわと。
アランは室内をゆっくりと見渡し、言葉を選び話しはじめる。
落ち着いた、よく通る声だ。
「エヴァンスについては、彼は皆さんがよくご存じのように、現在のプレストンの中心選手です。それ以上のことは就任したばかりでまだ何とも言えませんが、プレストンとの契約もあと2年残っているというのが事実です。そして、移籍マーケットでは皆さんの期待に沿うような活躍はできないかもしれませんが、ワタシたちプレストンはトライアウトを開催します。資金的な面から他のチームのレギュラークラスを引き抜くことはできませんが、自由移籍選手の中にもまだまだ十分に優秀な選手がたくさんいることを期待しています。我こそはと思うフットボーラーが、ぜひ参加されることを楽しみに待っていますわ」
アランの言葉に記者たちは一瞬静まり返り、それから少しずつざわめきが室内を覆っていく。
一月という時期は珍しいが、トライアウト自体はとりたてて珍しいことではない。
特に資金に乏しいスモールクラブの常套手段でもある。
けれども、プレストンほどのクラブが移籍金を捻出できず、降格の危機にあるというのに新たな選手を積極的に獲りにいかないということは、記者たちによってはやはり考えさせられるものがあるようだった。
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