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『御祝儀ってさー、一万くらいだっけ?』
『あたしも、親族とかじゃないからそれくらいかなって思ってたんだけど……ネットで調べてたら何か一万だったら陰でグチグチ言われてたり……あるみたいだよ』
『……じゃあ三万? ちょっと高くない?』
『でも、御祝儀って気持ちじゃん。金額で言われるのって嫌だな』
『まぁ、円香はそういうこと言う子じゃないって』
『世間のことに疎いだけだろー』
『良い意味で天然だし。円香は』
今夏、高校時からの親友の一人が結婚する。
『しかし……予想通り円香が一番乗りかぁ』
『しかもお相手は外科医の卵!』
よく晴れた土曜日の昼下がり、適度に混み合ったカフェでは、私達のかしましい声も周囲の音にかき消されていく。
『円香、遅いねぇ』
ブラックのコーヒーを啜りながら、凜は時計に目を落とす。
私にはよくわからないけれど、キラキラと上品な輝きを放つ凜の細身の腕時計は、有名ブランドの物なのだろう。
『円香、午前中は衣裳合わせなんでしょ?長引いてるんじゃない?』
『純白のドレスかぁ……。いいなぁ』
『望琴もそろそろプロポーズされるんじゃない?』
『えええー。まだまだそんな気配無いよー。汐梨ちゃんこそ結婚のお相手は?』
私のフリに凜も興味を示したのか、前方に身を乗り出して来た。
『私の話は別にいいじゃない』
『汐梨、ズルイ』
その時だった。
『みんな~、遅れてごめん!』
円香が手を振りながら走って来るのが見えた。
高校の時から変わらない、茶色いフワフワのロングヘアー。
白く小柄な彼女は女の子の憧れの的だった。
『遅いよー、円香』
『ごめんねぇ。貴志さんがなかなか帰してくれなくて……』
『うーわ。イヤだ、リア充は』
相変わらずのやり取り。
この四人で集まると、いつも時間が高校の頃に戻ったような気がする。
卒業から六年経った今でも変わらない。
円香、凜、汐梨ちゃん、そして私の四人は、高校からの親友。
今日は、円香の独身最後の集まりなのだ。
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