美咲・28歳・独身

3/11
前へ
/364ページ
次へ
だが正直なところ美咲は和海の出世を素直に喜べずにいた。化粧品メーカーの美容部員として美咲が働いているデパートと和海が働いているスーパーマーケットには定休日がなく、同じ日に休みを取ろうにもなかなか都合良くはいかない。休日のデートが難しいなら仕事帰りにデートをと思っても次の日も仕事、しかも早番だとゆっくり楽しむなどできない。ならばマメに電話やメールでやりとりをと思うが、電話をかけてもでないことが多く、メールを送っても返事は大概翌日だ。それだけ忙しいのだろうと思いたくても時折たまらなく不安になる。なかなか会えないばかりか電話やメールでのやりとりもままならない。この調子だとこのまま自然消滅ということもありえる。 和海を失う。 想像するだけでゾッとする。結婚なんてまだ先と笑っていられた20代前半だったらすぐに後釜を見つけ、今が楽しければいいといった恋愛を満喫するのだろうが、28歳となった今、和海を失うのは結構な痛手だ。後釜を見つけようにも「30歳までに結婚」という願いを叶えてくれそうな、つまり結婚を前提につきあえる男はそう簡単に見つからないだろう。 「……美咲?」 茜の声に美咲は我に返った。 「どげんしたと?」 美咲は何でもないように微笑んでみせた。同期で同い年、しかも同じ職場で働いている茜とは一緒にいることが多い。周囲にも「仲のいい友達同士」と見られている。 だが実際の茜との関係は微妙なものだ。同じ職場で働いているとどうしても互いの売り上げや客のウケといったことで比較される。そのたび美咲はほんの少しではあるが茜に負けていることを思い知らされる。売り上げも客のウケもほんの少しではあるものの茜が上なのだ。 でも私には和海がいる。仕事では負けても女としてなら私の勝ち。 そう思うことでどうにか茜の前で平常心を保っている。それが「仲のいい友達同士」の実体だ。
/364ページ

最初のコメントを投稿しよう!

109人が本棚に入れています
本棚に追加