美咲・28歳・独身

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茜と別れ、一人家までの道を歩いていた時だった。 そういえば……。 ふと思い足を止めた美咲の目に飛び込んできた看板。スーパーマーケット『プリーズ那珂川店』のものだ。今月から和海はここの青果コーナーで働いている。確か和海は今日出勤だと言っていた。今なら和海は商品の補充で売り場に出ているかもしれない。 ちょっと寄ってみようか。 美咲は思った。チーフになった和海の仕事ぶりを見てみたいというのもあるが、それ以上に和海に今日の私の華やいだ格好を見てほしかった。なにしろ今日は結婚式ということで気合いを入れて着飾ったのだ。いくらファッションに疎い和海でも今日の私の姿を見れば何かしら思うことはあるはず。考えているうちになんだかウキウキしてきた。 よしっ。 信号が青に変わった。美咲は頬を緩ませながら弾んだ足取りで横断歩道を渡った。渡り終えたすぐのところに『プリーズ』はある。 日曜日ということもあってか店内は家族連れの客が多い。それもこの近くの住人らしくそのほとんどが普段着姿だ。そんな中結婚式だからと気合いを入れて着飾った自分は明らかに浮いている。和海の仕事ぶりを見てみたい、今日の私の華やいだ姿を見てほしい……それらの思いは居心地の悪さにすっかり押しきられてしまった。 帰ろうか……。 そう思い店を出ようとした時だった。 「……美咲?」 聞き慣れたその声に美咲は足を止め、ゆっくりと振り返った。 「カズ……」 声の主は和海だった。白いシャツにブルーストライプのネクタイ、黒のツータックパンツの上に会社から貸し出されたという黒無地のエプロンをつけている。制服がない『プリーズ』ではこのエプロンが制服みたいなものなのだろう。
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