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「……どげんしたと?」
和海が発した言葉に美咲は唖然とした。
どげんしたと?
気合いを入れて着飾った私への第一声がそれ?
「……私言わんやったかいな? 今日は先輩の結婚式って」
実際和海には今日のことを電話やメールで伝えている。だが和海のこの様子からするとどうやら忘れてしまっているようだ。
「……あぁ」
いかにも何か思い出したかのような声を発した和海だったが、その取って付けたような感じに美咲は白けた気持ちになった。やっぱり忘れていたらしい。
「チーフになってから随分忙しかごたあねぇ」
皮肉を込めて言ったのだが通じなかったらしく、和海は真顔で頷いた。
「そうなんよ。せんといかんことがいろいろあるけんねぇ……」
そう答えた和海の右手は近くに停めた二段式の台車の上段に積んだ段ボール箱とすぐそばの陳列台の間を忙しげに往復している。そうこうしているうちに陳列台は半分にカットされ綺麗にラッピングされたキャベツで埋め尽くされた。異動してきたばかりの上チーフという肩書きまでついて気持ちに余裕がないのはわかるが、気合いを入れて着飾ったことに関して何も言ってくれないというのはやはり寂しい。
「忙しいとこゴメンね。私帰るけん」
美咲は口にした。帰ると言えばさすがの和海も今日の格好について何か言ってくれるかもしれない。そんな期待を込めた言葉だった。
「あぁ……んなら気ぃつけて」
和海の素っ気ない言葉に美咲は一層の寂しさを覚えた。同時に和海からの褒め言葉を期待していた自分を恥ずかしく思った。
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