10/41

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
 昼休みになると伸二は購買部でパンとコーヒーを買って、第二体育倉庫に来ていた。  なぜかこの学校には体育倉庫が二つあるのだが、この第二体育倉庫は第一体育倉庫と違って、体育館の外にあり、実際に使われることはなかった。  現在、使用されている機材は全て第一体育倉庫にあるのでただの物置と化している。  それを知った伸二は何とかしてここを利用しようと思い、職員室から鍵を盗み出して複製キーを作った。  と言っても、元々使われない場所の鍵なので適当なものとすり替えていてもばれることはなく、複製が出来れば元に戻せばいいという何一つとして障壁のない作業だった。鍵の管理も甘く、一言言えば誰でも触ることが出来る場所にあったということも幸いした。  なぜ伸二がわざわざそんなことをしたのかと言うと、学校内での喫煙場所が欲しかったためだ。  もちろん、トイレで吸う連中はいるが、伸二はああいう自分が喫煙者であることを見せびらかすようなことはしたくなかった。停学や退学のリスクもあったが、何より喫煙者であることが唯一のアイデンティティーであるように振る舞うような奴と一緒にされたくなかった。  伸二の喫煙は亮の影響だった。ただ兄に憧れて吸っているだけなのだからあまり変わらないかもしれないが、それを認めると自分の兄とあんな連中を同じだと認めるようで嫌だったのだ。  第二体育倉庫は倉庫と言っても電気もあるし、窓もある。跳び箱を椅子代わりに使えば快適な喫煙スペースになる。  ただ今は快適とは言っても、夏になると相当暑くなることが予想されるのでそれが唯一の悩みの種だ。  いつものようにパンを食べていると鍵が開いた。この場所の鍵を持っているのは伸二以外では前田だけなので、予想通り開いたドアの向こうには前田がいた。 「よう」と前田が伸二の隣の跳び箱に腰を下ろす。 「おう」と言って伸二はライターを前田に渡した。ライターとたばこは体育倉庫の中にある自前の缶箱の中に置いてあった。  前田は自分のたばこを缶箱から取り出し火をつけた。  吐き出された煙は初めははっきりと白く存在感を示していたものの、次第に色を失っていく。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加