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「そういえば昨日松本が俺たちのこと見たんだって」 「それで?」 「だからなんだってこともないんだけどさ。お前が松本のこと好きだって噂聞いたって言ってたけど」 「松本が?」 「うん」  それを聞いた前田は本当にどうでもいいという感じで、「ならほっとけよ。あの女そういうとこあるんだよ」と言った。 「知り合いだっけ?」 「いや。俺も噂で聞いただけだけど、ほとんどの男は自分のこと好きだって思ってるらしいって。まあ、相当女から嫌われてるからこれも本当かどうか分かんないけどな」 「ふうん」と松本の顔を思い浮かべた。やっかみは女もあるらしい。いや、女の方がひどいのだろうか。 「でも、俺たちが一緒にいるの見てどう思ったんだろうな?」と前田は少し面白がっているようだった。 「やっぱり変だと思ったみたいだったよ」 「だろうな」と前田は頷く。「俺から見てもおかしいもん」 「それは間違いない」と伸二も同意した。 「お前がこんないい場所教えてくれなきゃ俺たちが話すこともなかったもんな」  伸二は顔をしかめた。「よく言うよ。あとつけてきたくせに」 「あれは教えてくれたようなもんだろ。馬鹿みたいにたばこのにおいさせて歩いてたんだから」  馬鹿と言われたことに腹が立ったが、事実なので言い返せない。「一応、気をつけてたつもりなんだけどな」 「たばこ吸ってそうに見えない奴がどこで吸ってるんだろうって気になるだろ。で、ついて行ってみたらこんなとこで吸ってやがった」 「あの時はマジで焦ったよ。せっかくの場所を取られるって思ったもん」  はは、と前田は軽く笑った。  その時から前田と仲良くなったのだ。他人から見れば不釣り合いに見える二人も実はお互いに近いものを感じていた。何が、と具体的には分からない。ただ、伸二には両親がいなくて、前田は母子家庭だった。もしかしたらそのことで見えないところでシンパシーを感じているのかもしれない。
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