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「ところで、前から訊きたかったんだけど、お前の親って何で死んだの?」前田は吐き出した煙の行方を見つめながら訊いた。 「これだよ」と伸二も自分のたばこを取り出し、火をつけた。「不始末だよ」と煙を吐き出す。  こんな質問は普通の人間なら出来ないだろうし、仮にされても伸二も答えない。  しかし、相手が前田という同じ親がいない立場の人間相手だから許されるのだ。 「へえ。俺らも気をつけないとな」と前田は全く気をつけるつもりがないように言った。 「お前のとこは?」 「俺んとこは死んでねえよ。って言っても生きてるかどうか分かんねえけどな。俺のこと認知せずにどっか行っちまったし」 「母親は何も知らないの?」 「さあな。昔何回か訊いたけど教えてくれなかった。一応、今でも養育費は入れてくれてるみたいだけど」 「いや、それなら生きてるだろ」 「そういう意味で生きてるか生きてないかって言われたらそりゃ生きてるよ。でも、金だけ毎月振り込んでくる奴ってどうなんだ? 俺からすりゃ生きてても死んでても金さえ入れてくれりゃどっちでもいい」  なるほど、と伸二は感心した。少し変わっているが面白い考え方だった。「でもそれなら、もしかしたら会えるかもしれないってことだろ。会ったらどうする? とりあえず一発殴るか?」  前田はしばらく考え込んだ。伸二はすぐに、そりゃそうだろとか、いや殴るだけじゃ足りねえなとかそんな返事が返ってくると思っていたので意外だった。  ようやく前田が口を開いた。「どうするんだろうな。会ったら殴りかかるかもしれないし、でもそいつのおかげで母さんも俺もそこまで苦労せずに暮らしてこれたわけだし。うーん、分かんねえな」と本気で悩んでる。 「でも、会いたいとは思わないんだろ?」会いたいのであれば既に会っているはずだ。 「そりゃ今さら会って、父親だなんて言われたらどうしたらいいか分かんねえし」 「それもそうか」と当たり前の答えに自分がそんな質問をしたのが馬鹿らしくなった。
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