15/41

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
 亜樹ちゃん、喋ってないでこの料理運んでよ、とさっきまで料理を作っていた、正確には工場から運ばれたものを温め直していた社員の男に呼ばれたので中村はホールに戻った。  亮の女癖の悪さは生まれついてのものではない。  五年ほど前に会社を解雇されたのがきっかけだった。もちろん投げやりになったわけではなく、失職したことを伸二や祖父母に言えなかったのだ。  しかし、給料がないことには誤魔化すことは出来ない。そこで元々ルックスのいい亮は女からお金を貰って生活をするいわゆるヒモ生活をしてみようと思った。  軽い気持ちで始めてみたが、これが思った以上にうまくいった。これなら次の仕事を探している間も収入があるし、仕事が見つかれば転職したと言える。  結局、新しい仕事が見つかるまでそんな生活を続けた。  ところが上手くいっていたはずの亮のヒモ生活も伸二だけは気付いていた。  全てを知っていたわけではないが、僅かな雰囲気の違いを感じ取っていた。  朝出かける時も帰ってきた時も仕事があった時とはどこか違う。これは弟である伸二にしか分からないものだった。  ある時思いきって訊いてみると、全てを教えてくれたのだ。  今の仕事が見つかってからはしばらくそういうことはしてこなかったが、伸二と二人暮らしを始めてから、また少しずつそれで収入を得ている。  やはり、祖父母の支援があっても高卒の若いサラリーマンの給料で高校生を養っていくのは無理があり、亮は何が何でも伸二を大学に入れたがっている。  前の会社を解雇される時、真っ先にリストラ候補に挙がったのは高卒の人間ばかりだった。  今の時代は大学を出ていないと競争すらさせてもらえないということを身をもって教えられたのだ。  だからこそ伸二には同じ思いをさせないためにも大学行ってもらいたいし、そのための資金がいるのだ。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加