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 店の外に出ると、まだ八時過ぎということもあり人が多かった。  毎日の繰り返しに疲れたサラリーマン、社会に飛び込む前の最後の自由を目一杯楽しむことが使命のように感じている大学生、この先のことなど何も考えていないような高校生など、それらを見ていると人生の縮図をあらわしているようで少しもの寂しくなった。  結局は誰しも同じような人生を歩いて行くのだなとむなしさを感じたのだ。 「なあ、兄貴。人生って何だろうな?」 「どうしたんだよ、急に」と亮は少し笑いながら言った。 「ここにいる人たちを見てるとさ、違いが分からないと言うか、別にあの人とあの人が入れ替わってたってその人の人生なんて何も変わらないんじゃないかとか思っちゃうんだよ」 「お前からしたらそうだろうな」亮は当たり前のように言う。「俺から見たって、誰から見たってその人の人生なんて全部一緒だよ。そんな劇的な人生過ごしてる奴なんて一握りもいねえよ」 「だからみんな死にたくなったりするのかな」 「でもな、みんな同じような人生でも全く同じってわけじゃないだろ。そうだな」亮は少し視線を上に向けて考える。「例えば、人生が大きな樹だったとするだろ。お前はイチョウで、お前は桜だとかさ。その樹の種類が同じだったら、他の人からしたら全部一緒だよ。でも、よく見てみると枝葉の部分が微妙に違ってたり、幹の太さが違ったり。そんな違いを大事に出来たらもう少し人生も大切に出来るんじゃないかな。少なくとも俺はそう思ってるけどな」 「どっかの坊さんみたいなこと言うね」 「いいこと言うだろ」 「まあね。悪くはないんじゃない」 「ごちゃごちゃ考えるよりも俺たちは今からただで牛丼が食えるんだ。そういうことを楽しんでいけばいいんだよ」 「そうだね」と返事をした伸二は通行人が前方にあるビルの間の脇道をちらちら覗いているのが気になった。「あれ何だろ?」 「どうせ喧嘩とかだろ」と亮はそっけない。
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