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 目覚まし時計のアラームが鳴った。  まだはっきりしない意識のなかで、無理矢理起こされた苛立ちを時計の頭にぶつけて不快な音を止めた。  こうも毎日同じ音で起こされると、その音が鳴るたび条件反射でストレスを感じてしまう。これではパブロフの犬と同じだなと一列に行儀よく並んだ犬たちが頭に浮かんだ。  荻野伸二は布団から這い出し、時間を確認した。六時半だった。  この時間に目覚ましが鳴ったということは今日は朝食当番であるということである。  両親が亡くなって以来、祖父母と暮らしていたが伸二の高校進学を機に兄の亮と二人暮らしを始めていた。  そのため家事に関しては兄弟で当番制ということになってる。  朝が苦手な伸二にとって朝食当番が一番嫌いだった。朝食当番であれば普段より三十分早く起きなければならず、その三十分と言うのは人生にとってこれほど貴重な時間はないのではないのかと早起きするたびに思わずにいられない。  伸二は寝巻のまま部屋を出ていき、台所に向かった。冷蔵庫を開けると卵とベーコンがあったので、それらを二人分取り出しキッチンにおいた。  そして食パンをトースターの中に放り込むと、とりあえずの準備は終わったので洗面台に向かい、洗顔、歯磨きを済ませ、玄関ポストに新聞を取りに行った。  あとは亮が起きてくるのを待つだけだ。テレビをつけて、何を読むわけでもなく新聞を広げていた。  すると五分も経たないうちに亮の部屋のドアが開いた。伸二たちの住むアパートは2LDKでリビングに二部屋が同じように並んでつながっている形なのでリビングにいれば否応なしに分かるのだ。  亮は多少の無精ひげと寝ぐせでまさに今起きたばかりという感じのたたずまいだった。おはよう、と少ししまりのない声であいさつした。 「おはよう」と伸二はいつも通りに返した。「朝ごはん用意するから顔洗ってきなよ」 「おう。頼むな」と亮は洗面台に向かい、伸二は台所で朝食の仕上げにかかった。  亮が戻って来て二人でダイニングテーブルで向かい合って朝食を食べていると、テレビから女子アナウンサーが紛争地域で起きた暴動について伝えていたが、興味がないのでほとんど頭に入って来なかった。 「お前、今日バイトだっけ?」朝食を食べ終えた亮が訊いてきた。 「うん。今日は八時まで。多分残業もないだろうし早く帰れるんじゃないかな」
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