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しばらくすると体がじわじわ痛くなってきた。必死に動き回った疲れも相まって動く気になれない。伸二と亮はその場で座り込んだままだった。
「勘弁してくれよ、兄貴」口の中が血の味がするので唾を吐いてみたが、暗くて血が混じっているのか分からなかった。
「たまにはこういうのもいいだろ」
「よくないよ」伸二は苦笑した。
そういえば大きくなってから人の顔面を殴ったのは初めてだな、と伸二はじんじんと痛む右手の甲を見た。興奮で震えている。
「顔殴られてないの?」
「何発か殴られたな」亮は口元をさすった。
「明日仕事どうするんだよ」
「何とかごまかせるだろ。俺よりお前の方が問題じゃないか? 入学早々喧嘩で停学かよ」
「大丈夫だろ。それこそ適当に言えばごまかせるはずだよ。相手も分かんないし」
「そんなもんか」亮は大きく一つ息を吐きだした。
「あの絡まれてた奴どっか行ったね」伸二は左右を見回したが誰もいなかった。
「逃げたんだろ。馬鹿正直にここにいる必要もない」
「せっかく助けてやったんだから礼ぐらい言っていけよ」何となく逃げたと思われる方向を向いて言ってみた。
「見ず知らずの奴に助けられたんだから、普通は隙を見て逃げるさ。その場に残っていいことなんて何もないんだからな」
「兄貴はムカつかないの?」
「全然」
うーんと伸二は唸った。正直そこまで腹が立っていたわけではなかった。それでもやはり釈然としないものがある。
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