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「どうしたんだよ、その顔」体育倉庫に入ってくるなり前田は伸二の顔を指差して訊いた。
「兄貴の気まぐれだよ」伸二は煙を吐きだす。「昨日、若いサラリーマンがカツアゲに遭ってたんだよ。急に助けようとか言いだして」
「大変だな」と前田は吹き出した。「お前、そんなタイプじゃないだろ」
「顔面殴られるとこんなに大変だとは思わなかったよ。牛丼のタレってめちゃくちゃしみるんだな」
「そりゃそうだろ。口の中切ったんだろ」
「ここ思いっきり殴られたからな」伸二は左頬をさすった。
「殴り返したのか?」
「最初の一発ぐらいは当たったと思うけど。途中からわけ分かんなくなったからもしかしたら何発か当たってたかも」
「何だそれ。一方的にやられたのか?」
「そりゃそうだろ。相手三人いたんだから」
「一人差ぐらい何とかなるだろ」
「お前と違うんだよ。俺と兄貴だぜ。両方戦力にならないよ」
「それなのに喧嘩しに行ったのか?」前田はあきれ顔だ。
「兄貴が行ったんだから仕方ないだろ」
前田はたばこが入っている缶箱をあさり自分のたばこを取りだした。伸二がライターを渡す。シュッという音が鳴ってライターから火が吐き出され、前田のたばこに火を付けた。
何気なくその様子を眺めていた伸二が不意に気になったことがあったので訊いてみた。「お前って不良なの?」
「見れば分かるだろ」何言っているんだという顔で返事した。
「見た目とかそんなことじゃなくてさ。外見を除けば不良っぽくないって言うか」
「不良って普通見た目のことだろ」
「それって格好だけの不良ってことだろ。お前もそうなの?」
「まあ、たまに喧嘩したりはしてるけどな。お前みたいに顔に怪我なんてしないからそうは見えないだろうけど」
「俺だって好きで怪我したわけじゃない」
「最近は原付盗んだりしてるな。古いやつだとハサミかドライバーがあれば大抵盗める」
「お前不良だな」
「そうだろ」
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