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伸二はもう一本たばこを吸おうとして、箱から新たに一本取り出した。今度は前田がライターを渡してくれた。
「お前、三組だよな?」前田が訊いた。
「そうだけど」
「その噂聞いた? 山本の」
「知らない。あいつ今日休んでたけど何かあったの?」
「あいつの親、黒田のとこと揉めたらしいぜ。それで行方不明だってさ」
黒田というのはこの街の最大手の不動産会社のことだ。不動産と言っても色々あるが黒田不動産はいわゆる堅気の会社ではない。厳密に言えば、不動産会社自体は問題ないのだが、取り立てであったり、立ち退きの交渉に暴力団を使っているのだそうだ。
オーナーの黒田圭介がそもそも元暴力団の幹部で、現役の時に築き上げた人望で自由に暴力団員を使えるらしい。そんなところと揉めたのだから山本も無事ではないだろう。
「本当かよ。それはまずいんじゃないの?」
「海に沈められたとか、臓器を売られたとか色々言ってたけどな」
「何したんだよ、あいつの親」
「さあな。家賃の滞納とか、そんなこと言ってたけど、まあ所詮はただの噂だよ。明日になれば普通に学校来るかもしれないし」
「そうだよな。家賃の滞納ぐらいで殺されちゃたまんないもんな」
「あいつらだったらやりかねないけどな」
「やなこと言うなよ」伸二は何度もたばこの煙を吸い込む。
「何怖がってんだよ。こんな噂なんてしょっちゅうだろ。多分晴れの日よりも多い」
「現実味があるだろ。同級生の話なんてさ」
「いつもは近所で引っ越した家があったらだいたい黒田のせいになってたもんな」前田は愉快そうに笑う。
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