27/41

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
「こんな話でよく笑ってられるな」  前田は意外そうな顔をして、たばこを地面に落とし足で踏み消した。「お前山本と仲いいの?」 「別に良くはないけど」 「だったらそんなに気にすることもないだろ。あいつがいなくなろうが俺には関係ないし。こういう噂する奴ってだいたい俺と同じ考えだよ。自分とは関係ないって思えるから楽しめるんだよ。面白がってなきゃこんな噂話が出てくるわけない」 「それはそうなんだろうけどさ。やっぱり顔知ってる奴のそんな話は気分良くないよ」伸二は最後に煙を大きく吸いこんで、たばこの火を消した。 「そうか? まあ俺は顔も知らないわけだしな」 「お前卒業したらどうするの? 黒田のところで働くの?」不良と呼ばれる人が毎年何人か黒田のところに就職していると聞いたことがあった。使い物にならなかったら、結局は暴力団に流れて行くそうだが。 「卒業なんてまだまだ先だろ。そんなの分かんねえよ。でも、あんなとこで働いてたらろくな人生送れねえだろうな。どこも雇ってくれなくてあそこしか行くところがなかったら考えなくもないけど。お前はどうすんだよ?」 「俺じゃ黒田に雇ってもらうのは無理だろ。どこか雇ってくれそうなとこ探すよ」 「お前の兄貴、大学に入れたいんじゃなかったっけ?」 「そうだけど俺は行くつもりはないな。いつまでも兄貴に頼ってられないだろ」  前田の言うとおり卒業はまだまだ先だ。その後のことなんて真剣に考えたことはない。しかし、亮が望むように大学に行くつもりはなかった。伸二は亮の大変さを目の当たりにしており、これ以上の負担をかけるわけにはいかないと思っている。高校を卒業したら自立して一人暮らしをするつもりだった。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加