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中村の、この年齢や見た目にそぐわない、いいように言えば達観したような、悪く言えば無責任な言い方に伸二は好感を持った。
家庭環境のせいで、周りの人はずっと変な気遣いや偏見を持っていて、彼らとの会話では本心に何かが纏わりついていた。
それらの大半は憐れみで、時には優しさもあったが、いずれにしろ伸二はそれが邪魔で仕方がなかった。
「たばこ、吸っていいですか?」
伸二はポケットからたばことライターを取り出す。
「高校生は吸っちゃ駄目だよ」
そう言いながらも灰皿を差し出してくれた。
伸二は感謝の意を表すために少し頭を下げながら言う。
「それぐらい知ってますよ」
「何で、荻野君ってたばこ吸ってるの? お金かかるし、体にも良くないし、いいことないじゃん」
「別に大した理由なんてないですよ。何となくとか、そんな感じです」
「つまんないの」
「え?」
伸二は思わず火をつけようとした手を止めてしまった。
「荻野君だったら変わった理由かなと思ってたのに全然普通じゃん。何かこう、おって思わせるような答えを期待してたのに」
「一回、日本中の喫煙者に訊いてみて下さいよ。多分、一人も面白い答え言わないと思いますよ」
伸二は苦笑する。
「ほら、そういうとこ」と中村は伸二を指差す。
「普通だったら、そんな屁理屈っぽいこと言わないよね。日本中のみんなに訊けとかさ。でも荻野君はそういうこと言うじゃん」
「いや、本当に訊いて欲しいわけじゃないですよ」
「分かってるって。荻野君って頭いいのか、悪いのか分かんないね」
「多分、良くはないと思いますけど」
でも悪くもない、と内心で呟く。
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