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 亮はブラックのままのインスタントコーヒーを啜った。「お前、高校入ってからバイトばっかだろ。学校は大丈夫なのか?」  伸二は思わずため息をついた。「大丈夫だって。何回目だよ、これ訊くの」 「まだ高校入って二カ月だろ。もっと学校に馴染んでからの方が良かったんじゃないのか? お金なら心配しなくてもいいって。俺が何とかするからさ」 「何とかって、また訳の分かんない女の人から貰うんだろ。兄貴もいい歳なんだから、あんまり変なことばっかするのやめときなよ」  亮は少しだけむっとした顔になった。「お前はまだバイト始めたばっかだから社会のことが分かってないんだよ。あれは俺が貴重な時間を使って奉仕して、それに見合う報酬を貰ってるだけだよ。お前のバイトと変んねえって。言ってみれば俺の副業だよ」 「まあ、何でもいいけど俺も高校生になったわけだしさ。法律的にも働けるようになったんだからいつまでも兄貴にだけ頼ってられないって。それにさ、実際やってみると意外と楽しいし。だいたいうちの学校で勉強なんか心配する必要ないよ。よっぽどじゃないと留年なんかないって」 「いや、勉強もそうだけどさ、何て言うのか、その、俺が言ってるのは友達関係の方だよ」亮は指で唇をさすった。これは言いにくいことを言う時に見せる亮の癖である。 「それも問題ないって。それなりに友達も出来たよ」 「それならいいけどな。でも、嫌になったらバイトはいつでも辞めていいからな。俺に遠慮なんかするなよ」 「分かったよ」伸二はテレビ画面の右上に表示されている時間を指差した。「それより時間やばいんじゃない?」  亮も時間を見て、「そうだな。そろそろ着替えるか」と残りのコーヒーを飲みほしてから、それぞれに自分の部屋に戻った。
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