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「前から訊きたかったんだけど、何で荻野君ってお兄さんと二人暮らしなの? そのせいかは知らないけど、普通の子と違うよね」 「昔から友達がいないからじゃないですかね」  伸二ははぐらかそうとした。  それでも中村は訊いてくる。 「そんなこと訊いてるんじゃないって。言いにくいことなの?」 「言いにくいってわけじゃないけど」  伸二は困った。確かに言いにくいことではあったけど、どうしても言いたくないわけじゃなかった。 「何でそんなに訊きたいんです?」 「あたしと同じ気がするから」  そう言うと急に中村の表情から感情が消えた気がした。 「え? どういうことですか?」  そう口に出した瞬間に伸二は後悔した。パンドラの箱を開いたという感覚をはっきりと感じた。 「荻野君のご両親はもう亡くなってるの?」 「はい。火事で」  後悔はしているが、今さら引き返すことも出来ない。いや、厳密に言えば出来るのだが、好奇心がそれを許さない。 「亡くなった時、どう思った? 正直に言って」  伸二は躊躇った。その答えは即座に頭に浮かんだが、それを口に出すのは憚られた。 「言いにくい?」 「いえ。正直に言うとほっとしました。毎日、親と兄貴が喧嘩してたから」 「あたしもそうなの。あ、あたしの親はまだ生きてるけどね。ずっとお父さんとお母さんが喧嘩ばっかで、毎日怯えてた。ほら、ここ見てみて」  中村は左手の袖をまくって、手首を見せてきた。  その細くてきれいな手首はうっすらと一筋の傷跡があった。  「これ、一回だけなんだけどリストカットした跡なの。本で読んだことがあったんだ。自分の血を見ると心が落ち着くって。本当にその通りだった。痛かったけど、ゆっくり流れるあたしの血を見てると、何か休まるんだよね」  何も言えなくなった伸二に中村は表情を柔らかくして話しかけてきた。 「ショックだった?」
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