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「そりゃ。でも一回でやめたんですよね」
「うん。次の日もズキズキ痛いし、あたしが手首を切ったって何も変わってなかった。その時に少しだけ心が楽になったけど、残ったのはこの傷跡だけ。馬鹿馬鹿しくてそれ以来やってない」
「今は親と住んでないんですか?」
「大学入ってから、一人暮らし。不思議なもので、あたしがいなくなったら急に喧嘩しなくなったんだよね。結局、あたしのせいだったのかなって、最近思うようになったよ」
「で、それと僕のどこが同じなんですか?」
「何かそういう家庭環境の人って、どこか大人を信じてるようで信じてないって言うか、分かるんだよね。態度見てると」
伸二は四人で暮らしていた時のことを思い返す。
「確かに子供の時って、誰かに何とかしてほしいって思ってました。その誰かって大人を思い浮かべてたんですよね。
でも、その原因も大人だってことも分かってました。だから僕の中の大人っていうイメージが複雑なんですよね。完璧な存在であってほしいって思ってる反面、どうしようもない存在だってどこかで諦めてる。
昨日、兄貴に言われたんですよ。大人になれば、大人って大したことないって思えるって。
でも、やっぱり大人は完璧でいてほしいんですよ。僕のような子供を助けられるような、もっと言えば僕のような子供なんていなくていいような存在であってほしいんですよ。
まあ、そんなことはありえないって分かってるんですけどね」
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