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 二時間ほど皿を洗い続けて、ようやく店長が、「休憩に行ってきていいよ。あとは俺がやっとくから」と言ってくれた。  伸二はすっかりふやけた手を拭いて、休憩室に向かった。  休憩室に着くと、伸二はすぐにたばこに火を付けた。  火の付いたたばこをくわえながら、ロッカーにしまった自分の鞄をあさる。  そして中から数学の教材を取り出した。  伸二はその教材を見ながら、煙交じりのため息を吐いた。  毎日出される宿題に辟易しながらも、この休憩中に済ませてしまおうと決めた。  いつもであれば学校の授業中にしようと思うのに、今日に限って言えばなぜか学校に行く前に終えておきたかったのだ。  伸二の頭の中に、ふと松本の顔が浮かんだ。  そうか、彼女のためにやっておきたかったのか、と伸二は思った。  彼女のことが好きなわけではない。  ただ、彼女との関係が無くなるのが怖いのだ。  これまで伸二には友達らしい友達はほとんどいなかった。  そのため、宿題ということで松本と繋がれている安心感を失いたくなかったのだ。  宿題にとりかかろうとした時、休憩室に店長が入ってきた。 「ふう、疲れた」と言って、陽気な満足感を漂わせている。
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