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「分からないです」  伸二は正直に答えた。 「でも損得勘定だけで動いてたら、僕みたいなのは雇ってくれないですよね」 「そうかもな。でも、今日みたいなキャンペーンをして、お前らアルバイトはものすごくしんどい思いをしている。お前らは一円の得もしないのにな」  伸二は店長がアルバイトたちの不満を察していることに驚いた。  いつも陽気で思慮深さのかけらも感じない人であるのに。 「だったら少しはこっちに還元して下さいよ」 「さっき間違いを教えたやっただろ」 「あれだけですか」  伸二はわざと大げさに呆れたような声を出した。 「経営者はそうでなきゃいけないんだよ。多少アルバイトに嫌われようと、数字を出さなきゃいけない。俺みたいな雇われ店長でもな」  声を出して笑う店長は自身を卑下しているようだが、誇りを感じているようでもある。 「そう言えば、店長って子供が生まれたって聞いたんですけど」 「何で知ってるんだよ」 「みんな知ってますよ」 「誰が言ったのかなあ」  店長は頭を掻いた。  どうやらその様子を見ると自分で言っていたのを憶えていないらしい。 「生まれた時、どんな気持ちでした?」  店長は唸りながら少し考えた。  これは伸二にとって意外なことだった。  すぐに、嬉しかったであるとか、責任感が芽生えたといった言葉が出てくると思っていたからだ。  そして、しばらく考えて店長は、「子供が生まれたって気持ちかな」と言った。
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