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翌日、いつものように第二体育倉庫に行くと、珍しく前田が先に来ていた。
いつもと違うのは来るのが早いだけではなく、どこか落ち着かない様子だった。
普段から落ち着いていて、何事にも動じない前田にしては珍しい。珍しいというよりも、そんな様子の前田を見るのは初めてだった。
「早いな」
伸二は様子が違うことに気づかないふりをして様子を伺った。
「ああ、お前か」と前田は生返事をする。
伸二はひとまず自分のたばこに火をつけて、煙を吸い込んだ。
その間、前田は何も言わないどころか、伸二の存在すら忘れているようで、何度もたばこの煙を吸ったり吐いたりを繰り返している。
「何かあった?」
聞くべきかどうか、伸二は躊躇ったが結局は聞いてしまった。
前田は驚いたように伸二を見た。本当に伸二がいたことを忘れていたようだ。
「いや、何かいつもと様子が違うからさ」
伸二は言い訳をするように言う。
「ちょっとまずいことになった」
「まずいことって?」
「お前に言っても何にもならねえよ」
「そこまでいっておいて」
役立たずと言われているようで少し腹が立った。
「まずいやつの原付を盗んでたみたいで、それがばれちまった」
ほら、お前にはどうしようもないことだろ、と言わんばかりの表情だった。
確かに伸二にはどうしようもないかもしれないが、それでも多少のプライドはあるので、引き下がることは出来ない。一昨日、サラリーマンを助けたということが影響したかもしれない。
「まずいやつって誰? もしかして黒田関係?」
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