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伸二はアパートの駐輪場へ行き、自分の自転車に跨った。
まだ高校に入って二カ月ほどしか経っていないが、既に学校に行くのが楽しいと思えるようになっていた。特別楽しいことがあるわけではないが小中学校時代と比べると雲泥の差だった。
小学校三年生の時のことだった。両親が亡くなって少し経った時だ。今でも鮮明に思い出せる。
その時まで伸二の一番の仲よしだった友達が露骨にしかも突然伸二を避けるようになったのだ。
その理由を問いただすと、「荻野君のところのお父さんとお母さんは再婚だし、それに死んじゃったからもう遊んじゃダメだってお母さんに言われたんだ。僕も不良になっちゃうからって」
それを聞いた時、伸二の頭の中は真っ白になった。
彼の言っていることは事実で、伸二の両親は再婚で、亮は父の連れ子だった。そして、後から聞かされる話だが、伸二は父と母が不倫した時に出来た子供だった。
今になって思えば、その当時、父四十九歳、母三十二歳、亮十九歳、伸二九歳というまともな家庭環境にはとても見えず、近所では嫌な噂が付きまとっていた。亮が度々両親と喧嘩していたこともあり、両親の死についても色々と噂されたものだった。
伸二は悲しさ、悔しさ、やりきれなさ、もどかしさ、色んな感情が混じり合って、部屋にこもりひたすら泣き続けた。
その様子を見た祖父母は、「私たちの娘が馬鹿なことをしたせいで」と言って一緒に泣いてくれた。
そして何よりも伸二を救ったのは亮が涙を見せることなく、「お前は悪くない。ごめんな」と言って抱きしめてくれたことだった。亮の服が涙や鼻水でぐちゃぐちゃになってしまったことを憶えている。
そのこと以来、特別いじめられるようなことはなかったが、周りも伸二を避け、伸二も周りと距離を取り始めた。
結果として、友達と呼べるような人間はいなくなった。
しかし、隣の市の高校を選んだことで伸二のことを知る人はいなくなり、また高校生にもなると親がどうであろうと、そんなことを気にする人もいなかった。むしろ兄と二人暮らしと言うことに憧れを抱く人さえいた。
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