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教室に入るとすでに伸二の席の前には白坂保が座っていた。
伸二が入ってきたことに気付くと、「お前いつもギリギリだよな。家近いくせに」と話しかけてきた。
「家が近いからこそギリギリなんだよ」と言いながら伸二は自分の席に着いた。
「いいよなあ。俺なんか電車で一時間ちょっとかかるんだぜ」
「俺からすれば電車通学って羨ましいけどな。一回やってみたかったんだよ」
「多分な、一回やったら二度とやりたくなくなるぞ。大量のおっさんたちに押しつぶされてぐちゃぐちゃにされるんだぞ。勝手に色んな色を混ぜられた絵の具の気持ちがよく分かる」
「意味がわかんねえよ」
白坂は時々変なことを言い出すが、それは彼の影響のされやすさが原因だと思う。おそらく彼が最近読んだ本か漫画にでも似たようなことが書いてあったのだろう。
「だから、自分が赤だと思ってたのに急に青が入って来て紫になっちゃうんだぜ。そんな悲しいことはないだろ」
「意味が分かんないって」伸二は真剣な顔でそんなことを話す白坂を見ていると自然と苦笑していた。
白坂はあきれ顔で、「お前には感性が足りねえよ」と呟いた。
「いや、お前の表現が絶対間違ってるだろ。実際におっさんと混じり合う訳じゃないんだから」
「当たり前だろ、人間と絵の具を一緒にするんじゃねえよ。だからお前には感性が足りないって言ってんの」
これ以上反論しても無駄だなと思って黙っていると、隣の松本菜緒子にトントンと肩のあたりを叩かれた。そちらを向くと松本に、「おはよう」とあいさつをされた。
「あ、おはよう」
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