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 チャイムが鳴り、担任の小林先生が入ってきた。頭髪も薄く、おそらく五十歳前後であろうと思われる古典の教師である。古典教師らしく、どこか歌人のような雰囲気もあり常に落ち着きはらっているのだが、昔生徒に手を出したという噂もある。今の彼の人間性を作り上げたのはその経験かもしれない。  淡々とHRが進行する中、「ねえねえ」とまたしても松本が話しかけてきた。 「まだ出来てないって」伸二は机の上の英語の問題集を軽く叩いた。 「そうじゃないって。荻野君さ、前田君と仲いいの?」 「何で?」 「昨日、二人で歩いているの見たから」  伸二は昨日のことを思い出す。「ああ、昨日バイトの帰りにたまたま会ったんだよ」 「何してたの?」松本は興味津津だ。 「別に。普通に会って話しただけ」 「普通にって、あの人と普通に話す人あんまりいないと思うけど」 「不良だから?」前田浩二は校内でも指折りの不良で、確かに伸二のような人間とは釣り合わない。 「そうだよ。もしかして荻野君も実は不良だったとか?」 「見れば分かるだろ。そんなわけないじゃん」 「じゃあ、何で仲いいの?」 「まあ、色々ね」と伸二はこれ以上ないほど曖昧に答えた。 「何、色々って。感じ悪い」松本は不快感をぶつけるように睨んできた。 「どうだっていいじゃん。どうやって仲良くなったかなんて」本当にどうだっていいとも思ったし、伸二には話したくない理由もあった。
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