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うーん、と松本は相変わらずの不機嫌さで唸っている。「まあ、いっか。どうせ教えてくれないんだろうし。それよりさ、あの人が私のこと狙ってるって聞いたんだけど本当?」
「狙ってる?」前田が狙っていると言うと二つの意味が出てくる。
「あたしのこと好きなんでしょ?」と松本は当たり前のように言った。
伸二はそっちのことかと理解した。「さあ、どうかな。本人には聞いたことないけど」
「本当?」松本の顔は安心しているようにも悔しがっているようにも見える。
「少なくとも俺は知らないけど」
「良かったぁ」
「良かったの?」
「だって、下手に断ったら何されるか分かんないじゃん。付き合っても何されるか分かんないけど」
あいつも評判悪いんだな、と伸二は苦笑しつつ、一応、「そんなやつじゃないよ」とかばっておいた。
「とにかくさ、もしそんなこと言ったらあたし彼氏いるからって断っといてよ」
「彼氏いるんだ?」
「あ、ショックだった?」松本は嬉しそうに笑っている。
別にショックじゃないよ、とのどの奥まで出かかったが、伸二は相手にするのが面倒になったので話の向きを変えることにした。「多分、あいつ松本みたいなのタイプじゃないと思うよ」
「あたしもそう思うんだけどね。ああいう人はあたしみたいなかわいい子より、もっときついヤンキーっぽい子の方があってるって」
伸二はさらに面倒なことになったなと少し後悔し、「そういう意味じゃないんだけどな」と松本に聞こえないように呟いた。
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