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少年が目を覚ますと、そこは今まで居た場所とは違っていた。
(えっ、ここはどこ?)
さっきまで教室で授業を受けていた筈が今は真っ暗闇の中に一人で佇んでいる状況なのだから驚くのも無理は無い。
(さっきまで教室に居たよな?なら…これは夢、か?)
順応能力が高いのか、元々の性格のおかげなのか、冷静になって状況を把握していく。
そして、冷静になった事で人の気配がある事に気付いた。
「誰か居ますか?」
その声に一人の巫女装束の女性が現れた。
「紅い月が昇るわ。それと同時に彼も目覚めてしまう。でも、私ではダメなの」
突如現れたかと思った女性は挨拶も何も無しに話し始めて少年は戸惑ってしまう。
「あの、ここはどこなんですか?教えて貰えませんか?」
だが、戸惑いの質問にも女性は答えない。
「彼を止められるのは同じ魂の波長を持つ貴方だけなの。だからお願い。彼を救ってあげて…彼を闇から開放してあげて」
泣き声になっていく声を聞きながら、何を言っているのか、本当に夢なのか、何が何だか分からなくなった時、またしても女性が口を開く。
「想いは力となるわ。そして、貴方の真名にはたくさんの想いが詰まっているの。だから、お願い」
その言葉を聞き終わるとだんだんと風景がぼやけてきた。
“古(イニシエ)の名を…貴方の真名を開放して…”
さっきの女性の声がぼやけた頭の中で響く。
“そうすれば貴方は目覚めるわ…目覚める…目を覚ませ…起きろ…おい…起きんかー!!」
「ひゃい!?」
そんな奇声と共に三千院神楽(さんぜんいん かぐら)は机をガタガタ言わせながら飛び起きた。
「あ、あれ?夢?」
キョロキョロと辺りを見回しながら喋っていると後頭部をはたかれた。
「あたっ」
「あたっ、じゃない。それに何が『あ、あれ?夢?』だ。儂の授業で寝くさりおってからに」
「あっ、すみませんでした。小野寺先生」
まるで仕組まれた様な会話にそれまで見守っていた他の生徒達は一斉に笑い出した。
「まったく、儂の授業は寝るなと言っとるだろうが」
小野寺先生がそう言うと神楽は
「いえ、昨日はきちんと寝たんですが先生の説明が長くて、ついうたた寝を」
「儂のせいにするな!」
また、頭をはたかれ、回りの生徒も再び笑っていると授業の終わりの鐘が鳴った。
「仕方が無い。今日はここまで。日直、挨拶、終わりだ」
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