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「あぁ? 今何て言った?」
帝国〈エジェット〉に位置する街──カルバの裏路地にある酒場で、顔に大きな傷痕を持つダークエルフの男が酒の入ったグラスを弄びながら部下であるヒューマンの男を見ていた。
ダークエルフの傍らには、あの片言の女性も居た。
「す、すみません……て、手錠がいつの間にか……は、外れていまして……扉を開けた拍子に……に、逃げ……」
「声が小せぇ……はっきり言え!!」
顔を蒼白にしながら震える声音でぼそぼそと言う男に痺れを切らし、ダークエルフの男は怒鳴る。
まあ、こんな顔を見ればわざわざ答えを聞かずとも何が起きたか容易に想像出来るのだが。
「ひっ……こ……今回捕まえた精霊とヒューマンとエルフの子供達に逃げられてしまいました!」
……ほら、ビンゴ。
「……で?」
「は……?」
ぽかんとする部下に、またダークエルフの男は苛々する。
「まさか、逃げられてそのままって訳じゃねえよな?」
そこまで言って、漸く部下の男は事を理解したらしく頭が取れるのではないかと思う程にコクコクと頷いた。
「は、はい! す、既に捜索を始めています!! 」
「ふぅん……じゃ、精霊の餓鬼二人は必ず生け捕りにして来い。エルフとヒューマンの方は殺しても構わねえ」
「了解しました!」
部下の男はそう返事を返すとそそくさと逃げ出すように酒場を出て行く。
「ったく、使えねえ奴ら。 お前の方がよっぽど使えるわ、エマ」
グラスの酒を飲み干した後ダークエルフの男──シグルは女性の方を見てそう呟く。
「お褒メ頂き光栄でス……シグる様……」
エマ──と呼ばれた栗色の髪をおさげの三つ編みで纏めた薔薇色の瞳を持つ女性は、感情のこもっていない声で答えた。
「やっぱり生き物より機械だな」
その様子に小さく笑い、もう一度呟いてからシグルは立ち上がる。
「お出掛ケですカ?」
「ああ、あの役立たず共だけじゃ、不安なんでな」
エマにそう告げて、シグルは酒場を出て行った。
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