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スニーカーに、革靴が歩み寄る。
肩にぽん、と大きな手が置かれた。
「美和子が考えたんだよ。おまえに少しでも疎外感を与えたくないと。
家族だからね」
「なんだそれ」
嬉し過ぎるだろ。
切な過ぎるだろ。
鼻の奥がツンとする。
破れた恋の重みを噛みしめる。
「まあいいや。許してやるよ」
顔を上げると、親父の涙腺も決壊寸前だった。
何となくふたりで笑い合う。
妙に照れ臭い。
「帰ろうか」
「うん」
再び並んで歩き出す。
いつか彼女を母さんと呼べる日が来るのだろうか。
何のわだかまりもなく呼べる日が。
答えは、まだわからない。
それでもおれは、言いようのない温かさを胸に抱きしめながら、夕闇を歩いていく。
彼女色に染め変えられた我が家へと帰るため、親父とふたりで。
fin.
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