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帰り道。
秋が近づいてきているのだろう、大分暗くなるのが早くなった。
彼女が赤ん坊を連れて退院してくる頃には、さらに昼が短くなっているかも知れない。
お産に付き合ったせいで、昨日の夜から全く季節を感じていなかった自分に気づく。
違う。
そうじゃない。
美和子さんへの気持ちに気づいてから、おれの周りの空気は止まったまま。
土手を歩きながら、隣で親父が口を開く。
「美和子のこと、認めてもらえたのか?」
「認めるも何も、別に反対してねぇし」
「してただろう。愛想のカケラもなかったじゃないか」
「……気づいてたの」
「当たり前だ」
薄闇に阻まれて、お互いの顔はよく見えない。
それでよかった。
ベソかきを堪えた顔なんて、親父には見せられない。
「努力するよ。愛想よくできるかわかんねぇけどさ」
「瀬名」
ボソボソ言ったおれの言葉を聞いていたのか無視なのか、親父はいきなり声を張った。
「何」
「瀬斗にしたよ」
「は?」
「名前。瀬名の瀬に北斗七星の斗で、せと」
おれは思わず立ち止まった。
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