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「いってらっしゃい、瀬名くん。気をつけてね」
微笑む彼女の脇、玄関の棚に置かれた置き物の猫も、同じように微笑んでいる。
結婚のお祝いで彼女の親友から貰ったという、めおと猫。
男所帯だった我が家が、少しずつ確実に、彼女色に塗り変えられていく。
この猫がいい例だ。
こんな可愛いげのある代物、彼女がいなければ、この家にあるわけがない。
可愛いげのないおれは、無言のまま玄関を飛び出した。
ドアが閉まった途端、空気がおいしく感じられる。
家の中の空気はまずい。
彼女と同じ空間にいたくない。
毛嫌いと言われてもしかたないが、おれには彼女が疎ましい存在でしかないのだ。
おれの親父も親父の家も奪った上に、尚且つおれの自由気ままな私生活にまで土足で踏み込んでくる女。
いままで掛けられることのなかった声を掛けられるだけで、無性にイライラする。
母親ヅラするな。
おれはあんたの息子じゃないんだ。
早く別れちまえ。
投げつけたい言葉を抱え込んで言わないだけ、まだおれも優しいほうだと思う。
でも、いつ爆発するかなんて誰にもわからない。
おれは毎日爆弾を抱えながら生きている。
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