立ち止まるな、        その道をゆけ。

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親父が再婚したのは今年の三月。 職場で知り合った娘のような歳の女との結婚を決断するにあたっては、並々ならぬ覚悟が必要だったに違いない。 母さんが死んでから十年間、一度も女の影を家庭に持ち込まない男だった。 おれに気を遣っていたのだと思う。 初めて彼女と対面したときは衝撃的だった。 だって息子のおれと五つしか歳が違わない。 驚きのあまり口が開きっぱなしになるおれを不安げに見つめる親父と、ケタケタ笑い出した彼女。 正反対の反応を示したふたりが一緒になりたいと願うのを、おれが反対する必然性はなかった。 もう高校生だし、卒業したら家を出て働くのだから、一緒に生活するのもほんの少しの間だけだ。 もしも彼女の本性があまりにいやな女だったとしても、二年くらい堪えてやり過ごせば解放される。 何の問題もない。 そう考えていた数ヶ月前のおれは甘かった。 実際には、一緒に暮らし始めて二日で音を上げた。 いままでしなかった女の声が聴こえること、親父の鼻の下が伸びきっていること、家事の分担がなくなったこと、血の繋がらない女に平気でパンツを洗われること。 家の中で起こるすべての新しい日常に、いちいちイラつく。 おまけに、彼女は妊娠していた。 明らかに計算が合わない。 年の差婚。 できちゃった婚。 芸能人じゃあるまいし、いい加減にしてくれ。 .
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