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気がつくと、時刻は夜の八時をまわっていた。
アルバイトが終わるのが六時。
そのまま帰っていれば、七時前には家に着いていただろう。
日頃のストレスもあり、ついつい遊び過ぎたようだ。
ゲームセンターで友人たちに別れを告げ、やまない耳鳴りを道連れに急いで帰宅した。
帰りが遅くなりすぎて、後々親父から小言を食らうのはまっぴら御免だったから。
「瀬名くん?」
玄関を開けるなり、リビングから彼女の声が飛んできた。
「悪い。遅くなった」
とりあえず咎められる前に謝っておく。
上辺だけで付き合えるほど大人じゃないけれども、揉め事を引き起こしたがるほど子供なわけでもない。
中途半端なお年頃だ。
廊下を突っ切って階段に一歩足をかけたところで、おれは立ち止まった。
おかしい。
普段はポンポンと返ってくるはずのレスポンスがない。
胸騒ぎを覚えてリビングを覗くと、彼女がソファに横になっているのが見えた。
出っ張った腹をさすっているその表情は険しい。
「……美和子(みわこ)さん?」
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