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「美和子さん。おれ、どうしたらいい? 何かできることない?」
彼女は、おれらしからぬ発言に少し驚いたように、パチパチと数回瞬きをした。
それから、腹に当てていた右手を持ち上げ、遠慮がちにおれの腕を掴む。
「一緒にいて」
心細いから、和明(かずあき)さんが着くまで。
そう続いた台詞は半分聞き流した。
「わかった」
強く頷くと、彼女は心底安心したように微笑んだ。
それからの二時間は、痛みを逃す彼女の背中をひたすらさすり続けた。
他のことは何も考えず、ただ彼女のことだけを考えて。
タクシーに乗り込む頃には、痛みも相当増していたらしい。
呻きながら乗車する彼女を介抱するおれは、いまだかつてないくらい真面目な男になってしまった気がした。
自分自身が遠く感じる。
現実であり現実でないような、不可思議な感覚に包まれた。
「ご主人ですか?」
病院で真っ先に訊かれたこの言葉は、きっとずっと、おれの胸の奥底にしまわれ続けるだろう。
思わず顔を見合わせて吹き出した、気恥ずかしい経験とともに。
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