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翌日。
バイトを少し早く上がらせてもらい、会社帰りの親父と落ち合って病院へ向かった。
彼女と赤ん坊に面会するためだ。
お産当日はフワフワした落ち着きのない頭で見たので、正直なところ、赤ん坊がどんな顔をしていたのか全く覚えていない。
感極まったウルウルの目で対面した親父も同様だ。
おれたちは、初めてマジマジと赤ん坊を見た。
新生児室にいる彼を、ガラスにへばりつくようにして観察した。
「かわいいな、瀬名」
「うん」
そんなやりとりをしては彼女に笑われることを、馬鹿みたいに何度も繰り返した。
「家族なんだから、かわいくて当然じゃない」
痛む身体を壁に預けてそう笑う彼女は、一夜で見違えるほど母の顔になっている。
もう、おれには手の届かない場所まで登ってしまったのだと悟る。
どうにもならない。
帰り際にもう一度、赤ん坊の姿を目に焼き付けた。
あの、玄関に飾られた猫とそっくりな目元。
眠っていて目が開いていないのだから当たり前かも知れないが、なぜだかイメージがダブった。
幸せの象徴のようなあの猫に。
この子は、おれが直前までさすっていた身体から生まれた子供。
彼女と親父の間に生まれた子供。
おれと半分だけ血が繋がった子供。
おれの弟。
つまり、美和子さんはおれの母親。
むせ返るような愛しさを覚えながら、おれは必死に自分に言い聞かせていた。
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