冷静の赤と情熱の青

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帰らないで 今夜は帰らないで欲しい 野島にそう言われて私に断る理由はない そして それがどういう意味かぐらいは 大人の女なら誰だってわかる その日の彼はいつもと少し違っていた 少し乱暴とも思えるように抱きしめられると いきなり唇を重ねてきた いつもは男の匂いなど感じさせない彼が一瞬で男に変る その時、私が一番最初に思った事は 大丈夫なのだろうか? という事だった ジョウとは違う唇の感触 ジョウよりもずっと大人のキス 私は次第に 野島との初めてのキスに夢中になっていく どうしたんだろう? 何かおかしい いつもの私じゃない 彼は私の唇をふさいだまま ワンピースのファスナーを一気に下ろす 肩から脱がされると ストンと落ちて足元に柔らかいシルクの水溜りができる 私は 彼のシャツのボタンを手探りで外していく 途中で何度も手が止まる それほど私は野島のキスに圧倒され 夢中になっていた じれったくなったのか彼は自分でシャツを脱ぎ捨てた ベッドに倒れこんで初めて唇が離れる 黙ったままジッと見詰め合う 二人とも息が乱れ どうする? とお互い瞳の奥で問いかける その問いかけに先に答えたのは 意外にも私だった 理由はわからない ただ ひどく興奮していて 野島に抱かれたい 彼が欲しいと思った それはジョウには感じたことのないものだった 首すじから胸にゆっくり移る唇 魔法のような野島の指 完全に我を忘れ 私はとうとう声を出していた 「おねがい…………」 彼の手が止まる 「うっ……う……」 え…………? 私の胸にぽとりと水滴が落ちる 彼は泣いていた 「こんなに……こんなに愛してるのに……どうして……こんなに好きなのに……うっうっ……」 あとは嗚咽に変わってしまった 彼の体は 欲望に反応することはなかったのだ 私は一番してはいけないことをしてしまった なんてことだろう 心と体がひとつにならない痛みは この私が ジョウとの関係で知ってるはずなのに ごめんなさい と言い掛けてやめる 「愛しているわ……あなたのこと……」 野島は涙でいっぱいになった絶望的な眼で私を見た 「愛しているわ……どんなあなたも」 あの日のように 初めて出逢った雨の夜のように 彼は私の胸で泣き続けた
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