ヴァセリン硝子の緑色

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僕が初めて彼女に出逢ったのは雨の降る夜だった 正確にいうなら 出逢ったのではなく 救われた… そう言ったほうがいいだろう あの雨の夜 僕は自分を見失い抜け殻のようになっていた 知らぬうちに赤信号の車道へとフラフラと出ていっていたらしい 物凄い力で、まるでラグビーのタックルのように何かがぶつかって来て 歩道に引き戻されたいや、投げ飛ばされた あまりの衝撃に驚いて見るとタックルしてきたモノが 僕と同じように雨にずぶ濡れになり、膝から血を流して肩で息をしていた 「大丈夫ですか…?」 と小さな声で聞いてみた すると パンッ! いきなり頬を殴られた 痛みは感じなかったが 驚いた そして 涙がドッと溢れてきた ずぶ濡れのその人は 「死んだりしては駄目」 そう言って 力いっぱい抱きしめられ 僕はその人の 体温と鼓動にせきをきったように声を上げて泣いていた ゆり子さんとの出逢いはロマンチックとは程遠い 最悪な出逢い方だった
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