冷静の赤と情熱の青

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どれくらいの時間が経ったのだろう ダンボールが散らかった部屋で 私達は野島のベッドにいた 彼は泣き疲れて私の腕の中で眠ってしまっている 窓の外は夕日が沈みかけて 耳を澄ますと波の音が遠くに聴こえる 喉が渇いた 彼を起こさぬよう ゆっくりと腕を外そうと体を動かす すると  無意識に私にすがりつく 「起きているの……?」 返事はない そっと顔を覗き込むと 心地よい寝息を立てている ジョウと同じでこの人の寝顔も美しい 起きている時にいろんな事に耐えていたり 悲しみを抱えている人の寝顔は美しい 眠っている間だけはそれらから解放されるからだろうか 野島は私の腕の中で 今、解放されているのだろうか 穏やかな寝息を立てる彼が不意に何か呟いた 寝言……? すると眉間にシワを寄せ少し苦しげな表情をして 長い睫毛の隙間からひとすじ涙が流れた 胸が痛くて 苦しくて 私も泣き出しそうになる そして 「……いかな……いで……」 かすかに呟いた 彼は 眠っている時でさえ解放されることはないのだ 心が痛い その痛みと同じくらい愛しい 私は眠っている彼を抱きしめた
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