睡蓮のエメラルドグリーン

3/9
前へ
/293ページ
次へ
「野島」と書かれたプレートのある部屋の前に立つ 大きく息を吸い込んでドアをノックする 「はい…どうぞ」 変わらない声が返ってきた ボクはドアを開けデスクに向かっている白衣の人に声を掛けた 「先生、こんにちわ」 するとこちらを向き優しい笑顔で立ち上がると 「やぁ、来たね。そろそろ現れる頃だと思ってたよ…さぁ、座って」 そう言って椅子をすすめてくれた アンティークのやわらかな手触りのチャーチチェア そして自分はその向かいに腰掛けた その椅子は肘掛けがあり細い脚、座面と背もたれに深い深い緑色のビロードのような生地が張られている 百年近く経つというのにとてもキレイな状態で、一目惚れしてしまった 何を隠そう この椅子はボクがイギリスで仕入れた初めての商品 それを 目の前に座っているこの先生が半ば強引に買っていったのだ 先生とは教師の方でなく医者 彼は この人里離れた海の見えるホスピスでメンタルケアをしている 精神科の医者である
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

161人が本棚に入れています
本棚に追加