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「どうしてその時に聞かなかったの?そのドレスを選んだ理由」先生はタバコに火をつけながら言った
「あれっ?ここ禁煙ですよね…」
「しーっ!」
人差し指を口の前に立てて笑った
「止めれないんだ?」
「ダメな医者だろ?全く自分でも呆れるよ。僕は本当にダメ男だよ…君を見ていると余計にそう思う。五年も経つのに、ちっとも前に進めずにいる……それに引き換え君はあっという間に有名アーティストだ」
自虐的に笑いながら
白い煙を
ふぅーっとはき出した
「それでも先生はココで頑張ってるじゃないですか?……ボクみたいに逃げ出さずに」
「行くところがないだけだよ。ここはね、病気が治って退院していく人なんていないんだ……何だかみんないつまでもココにいるような気持ちになるんだ……ダメだね!まだ縛られてるよ」
ボクは椅子から立ち上がり窓のところまで行くとカーテンをシャーっと全開にした
海からの風と初夏の日差しが
タバコの煙もブルーなこの空気も
一気に流してくれる
「それで?どうしてドレスを選んだ理由を聞かなかったの?」
「聞けなかった」
「聞けなかった?どうして?」
「あまりに幸せそうな顔をしてたから……」
「幸せそうな顔?」
「すごく幸せそうな表情で……初めて見ました。ボクの知らない彼女だった」
「僕は見たことがあるよ…確かこんな満たされたような顔をしてたなぁ」
「いつ?!」
先生は少し哀しそうに
「あの時……」
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