「……春一君。私はね、後悔なんかしてないよ」【完結】

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発端は春一が学校での職員会議を忘れて、家に帰ってしまったことである。 そのときは、校長や教頭などからお叱りを受けただけですんだが、それから発注ミスや、行事や連絡などの伝え忘れ、などが頻繁し『少し休んでみては?』と同僚に進められたのだ。 もちろん、春一は笑い飛ばしたが、いやにマリアルが真剣に病院を進めるので、行くしかなかったのである。 「どうにもならん。解るだろ?アルツハイマーは今なお、薬すら見つかっていない未知の病気だ。せいぜい進行を遅らせる程度のな。………しかもコイツの次世代魔術は………わかるだろ?………無茶をし過ぎたんだよ、色々な」 「………………はい」 悲しく隣の妻が目を伏せるのをみて、春一は一体どうしたのかと、彼女を見る。そして思い出す。 あぁ、そうか、俺はアルツハイマーなんだ。 「あ…………えと、すいません。俺はどうしたら………」 「………酒は禁止だ。職場も早い内に辞める事だな、手続きは私がやろう」 「え?いや、そんないいですよ、はは………。初めてあったばかりの………………あ、れ?」 「……………わかった。手続きは、マリアル。君がやるといい」 女性の──藤田沙紀の言葉を聞いてマリアルは頷く。 「あれ?沙紀先生……………?何やってんすか?」 「………進行度を中期段階に修正しておこう」 と、彼女は言うと、涙をこらえながら「お大事に」と口早に言い放った。 春一はマリアルに手を引かれながら診察室から廊下に出る。もちろんマリアルは笑顔で、春一を見ている。 「あれ?なぁマリアル、俺……………」 「あはは、一緒に病院に出かけたじゃない」 「あ、そっか…………うん」 手を引かれる春一。 そうだ思い出した。アルツハイマーだ。そうアルツハイマー。 物を少しずつ忘れていって、最終的には、口を閉じる、尿を我慢する、ご飯を食べるだとかできなくなるとかいう話だった…と思う。
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