「……春一君。私はね、後悔なんかしてないよ」【完結】

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「マリアル」 「うん?なに?」 病院の廊下から出てロビーに向かい、薬を受け取り外に向かう。 その間にも、春一は一回立ち止まったことに気がついているだろうか。 マリアルの胸が締め付けられた。 ゆっくりと、紅葉がまうアスファルトを踏みしめる。 「ごめんな、ごめん………。こんな……こんな奴で…………」 涙が出てきた。 腹がたつ。 とにかくなんだか腹がたつのだ。 「春一君………気にしないで。私は春一君が大好きだから、だから全然嫌だなんて思わないよ」 「でも……でも…………俺は…………」 うっ、と春一は声をだして嗚咽をもらした。きっとマリアルが初めてみた春一の悔し涙だった。 「春一君……………。大丈夫だよ。私は……………大丈夫だから」 立ち止まり、春一は数秒間嗚咽を漏らしたかと思うと、今度はすぐさま顔をあげて、首を傾げた。 「あれ?………俺………」 「家行こうか」 「え……?……あ、うん」 マリアルに手を引かれる。 春一は、どうして俺泣いてたんだろ、と首を傾げるが、マリアルは結局最後まで教えてくれなかった。 終始マリアルに手を引かれていた春一ではあったが、ふ、と足を止めた。 「どうしたの?春一君」 「あ、いや、病院は行かないのか?」 「……さっき、一緒に行ってきたでしょ?」 「あ?そ、そうか………?」 「うんっ!おっちょこちょいだなぁ」 マリアルの笑顔につられて、春一はすぐさま笑った。 きっとそうしないと自分を保てないからだろう。笑って、あれはおっちょこちょいだったんだ、と思うしか、アルツハイマーを認めない手段は存在しなかったのだ。
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