23人が本棚に入れています
本棚に追加
「マリアル」
「うん?なに?」
病院の廊下から出てロビーに向かい、薬を受け取り外に向かう。
その間にも、春一は一回立ち止まったことに気がついているだろうか。
マリアルの胸が締め付けられた。
ゆっくりと、紅葉がまうアスファルトを踏みしめる。
「ごめんな、ごめん………。こんな……こんな奴で…………」
涙が出てきた。
腹がたつ。
とにかくなんだか腹がたつのだ。
「春一君………気にしないで。私は春一君が大好きだから、だから全然嫌だなんて思わないよ」
「でも……でも…………俺は…………」
うっ、と春一は声をだして嗚咽をもらした。きっとマリアルが初めてみた春一の悔し涙だった。
「春一君……………。大丈夫だよ。私は……………大丈夫だから」
立ち止まり、春一は数秒間嗚咽を漏らしたかと思うと、今度はすぐさま顔をあげて、首を傾げた。
「あれ?………俺………」
「家行こうか」
「え……?……あ、うん」
マリアルに手を引かれる。
春一は、どうして俺泣いてたんだろ、と首を傾げるが、マリアルは結局最後まで教えてくれなかった。
終始マリアルに手を引かれていた春一ではあったが、ふ、と足を止めた。
「どうしたの?春一君」
「あ、いや、病院は行かないのか?」
「……さっき、一緒に行ってきたでしょ?」
「あ?そ、そうか………?」
「うんっ!おっちょこちょいだなぁ」
マリアルの笑顔につられて、春一はすぐさま笑った。
きっとそうしないと自分を保てないからだろう。笑って、あれはおっちょこちょいだったんだ、と思うしか、アルツハイマーを認めない手段は存在しなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!