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それから2人は家に帰り、食事を済ませ、ゆっくりとした時間帯になった所でマリアルは病気の事をと春一に伝えた。
焦らず、正確に、だ。
もちろん途中で春一が忘れてしまい、なんどか同じ話を繰り返したが、時計の針が2回りする頃にはすべてをわかってくれたらしい。
とはいえ、紙に書いてでないと、やはりすぐに忘れてしまうらしいので、気休め程度にしかならないのだが。
「………………」
「職場には、私が言っておくね」
疲れた表情で彼女は言った。
元々、運動をあまりしてこなかったマリアルだ。今日の外出は余程疲れたことだろう事は春一にも想像ついたが、一体どこに出掛けたのかが思い出せないでいた。
もちろん、春一は自身がアルツハイマーらしい事は理解できた。
「……………マリアル………」
「うん?」
「これからはさ………その…………」
「お金は大丈夫だよ。春一君はなにも心配しないでよ。蓄えなら沢山あるんだし」
確かに、イギリスのトップだった彼女と、Sランクだった春一ならば働かなくても余裕を持って暮らして行けるだろう。
だけど今はそこじゃない。
そうじゃない。
「違うんだ」
「……………?じゃあ子供?…もう、春一君はエッチだな~///」
「………マリアル」
「そんな場合じゃないかもだけど、私は…その……いいよ。今日は───」
「マリアル!!!」
ビクン、とマリアルの肩が震えて春一を凝視する。
結婚以来、多分怒鳴ったのは確証は無いが恐らく初めてだろう。
たぶん
わからないけど
「マリアル、俺がまだ正気な内に聞いてくれ………、………」
「………は………る」
「俺を施設に入れるんだ」
「!!!そ、そんなっ!!!」
マリアルは春一に掴みかかり懇願をする、が、春一も同じようにマリアルに懇願した。
「もうお前に負担はかけたくないんだ………頼むよ……」
「嫌だよ春一君………重荷なんかじゃないよ」
語尾を荒げながら、マリアルは涙を流す。
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